今回はダイレクトレスポンスマーケティング(以下、DRM)について書いていきます。
DRMは「Direct Response Marketing」の略で、直接的に反応する顧客をターゲットにしたマーケティング手法のことを言います。ダイレクトメールというとピンとくる人も多いのではないでしょうか。インターネットの普及した現代では、このDRMは非常に有効なマーケティング手法であり、これからの承継開業やクリニック経営において大変重要になるでしょう。
今回の記事は、医療経営大学での講義内容を参考にしております。今まで学んできたことを伊勢呂なりにわかりやすく書いていこうと思います。
ダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)とは
駅広告、新聞広告、電柱看板、リスティング広告、などは世間一般の大勢の人を対象としたマーケティング、いわゆるマスマーケティングと言われます。これに対してDRMとは、その商品やサービスに対して直接的に興味のある顧客に絞って届ける手法です。
例えば、購入はしていないけれども、興味があってメールマガジンに登録している人に定期的にメールをしたり、「脱毛」クリニックを検索したらそのサイトが追ってくるようになったり、一回でもそのお店で購入したらセールのお知らせやパンフレットが送られてくるのもDRMです。以下にこの特徴などについて詳しく説明していきます。
世の中にあるダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)
高級自動車メーカーの事例
これは実際に高級自動車メーカーのディーラーがカナダで行った手法です。まず、高級車を購入できる富裕層の家をリサーチし、各住宅の前にそのメーカーの車を停めて写真を撮りました。そして、住宅と車を一枚におさめた素晴らしいショットをハガキにして、それぞれの家に送ったのです。そうすることで受け取った人は「このメーカーなかなかいいな、家とも合っているな」と高級車を遠い存在ではなく、身近なものに感じます。
検討していなかったが、実際に購入する余裕もあるので買ってもいいかも、と思うようになります。その結果、ハガキを送った3人に1人が試乗に来たそうです。
とある航空会社の事例
ある海外の航空会社では、顧客の趣味や興味をフェイスブックやインスタグラムからAI分析しています。そして、機内で顧客向けにカスタマイズした雑誌をそれぞれ提供しました。普段なら手に取らない雑誌ですが、自分のために用意された特別な雑誌で、さらに興味がある内容のため、購入につながる可能性が高くなります。
まずは、見てもらう、手に取ってもらう、興味のある内容を提供する、さらには提供されるサービスに気分がよくなり、この航空会社をまた利用しようと思う。購買へと向かう掛け算が増えることで、反応率をあげているのです。
何故ダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)が必要なのか
コストがかからない
マスマーケティングのように大量に無作為に投下するのに対して、DRMは限られた見込み客に絞るため、費用を3分の1程度に抑えることができます。興味のない人にはアプローチせずに、こちらに興味のある人に対して徹底的にお金をかけるイメージです。また、お金をかけたとしても単価コストが安いので、全体のコストも抑えられます。
自分だ!自分にはこれが必要だと思えるから。顧客が多様化している
今の世の中は、多くの人がそれぞれ多岐にわたる趣味や興味を持っています。それぞれに個性があり、顧客も多様化している時代です。そんなたくさんの情報や商品の中で、ズバリこれだ!と自分の求めていたものと思えるものに出会ったら、大体の人が購入にいたります。個性が多様化しているからこそ、ピンポイントでターゲットを狙った商品には反応率が高くなるのです。
例えば、個性的な品揃えのセレクトショップで、一度でも購入したお客様に対してシーズンごとにメールなどで連絡を取り続けます。一度商品を購入した顧客に対し、琴線に触れるものが提供できる可能性は高いので、また「これだ!」と感じてもらえる機会を与えることになります。
格差社会である
格差社会と言われる現代において、全員が同じニーズではありません。お金のない人に高級車は勧められませんし、余裕のある人、そうでない人の情報は分けてマーケティングすることで、無駄のないアプローチが可能です。年齢、家族構成、生活様式、などさらに絞ることでより良いマーケティングが提供できます。
人は忘れる生き物である
DRMのような手法を利用し、顧客に興味のあるものを提供しても、人間はすぐに忘れてしまうものです。事実、人の記憶は1日で74%もの情報が失われると実証されています。だからこそ、ダイレクト(直接的)に、何度も追いかけてマーケティングをする必要があります。
来店後すぐにダイレクトメールでお礼をし、新しいサービスの案内や季節の挨拶、などアクションを起こす事で、忘れている人に働きかけることができます。
医療でのダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)
医療の現場においては、自由診療の場合によくありますが、例えば医療脱毛をした人に対してのキャンペーンのお知らせ、インフルエンザワクチンの開始、新しい検査の導入、など情報をLINEやメールで送ります。一回でも来院した患者さんにダイレクトレスポンスを行います。
広い意味でのDRMの話になりますが、例えば、子どもが病気になった時に、「こどもクリニック」と「総合病院の小児科」では、どちらに行きたいと考えるでしょうか。圧倒的に「こどもクリニック」を選択する人が多いでしょう。心臓にトラブルがあった時には、「内科クリニック、循環器専門」と書いてあるクリニックよりも「心臓専門クリニック」と書いてあるクリニックを選ぶのではないでしょうか。これも広い意味でのDRMになります。
必ずしもクリニックはそうするべきという意見ではなく、なるべく専門の科に特化した表記の方がダイレクトに伝わり、結果的に患者数が増える傾向にあるということです。
実際に、私が承継開業した大宮エヴァグリーンクリニックでは、泌尿器科とは謳っていません。しかし、分院の東京泌尿器科クリニック上野では「泌尿器科」と謳っています。上野のクリニックを始めて3ヶ月ですが(2021年現在)、新患数が大宮を上回る日もあります。
「尿管結石クリニック」などより細部に分けてもいいのかもしれませんが、現在は「泌尿器科」くらいがちょうどいいと思っています。マーケティングの観点から言うと、大きな枠組みよりも、特化した専門性の高いところが選ばれるのです。そういう意味でクリニックの名前も、重要なマーケティング要素になります。
今まで説明してきたダイレクトレスポンスマーケティング(DRM)ですが、専門的に対応してくれる業者さんもあります。その場合は「DRM」で調べるとすぐに見つけることができます。適切な業者を見つける必要がありますが、最低でも100万円はかかるでしょう。また、これはあまり保険診療には適しておらず、自費診療、美容クリニックに、特に向いている手法と言えます。