今回は私の経験をもとに、スタッフがクリニックに求めていること、そして経営者として意識的に取り組むべきことについてお話しします。
私は現在、大宮エヴァグリーンクリニック(以下、大宮)と東京泌尿器科クリニック上野(以下、上野)、2つのクリニックを経営しています。経営する前は、給料や福利厚生などの待遇を手厚くすれば、良い人材が採用でき、長く働いてくれるだろうと考えていました。
ところが、実際にクリニックを経営し、そして勉強するうちに、もっと重要なことがあると学びました。それは、「やりがい」です。勤務医時代の自分自身について振り返っても、待遇の良さよりも「やりがい」を求めていたように思います。また、クリニックのスタッフが何を求めて働いているのか、それを理解しないことには、クリニック経営は上手くいきません。
今回は、ネッツトヨタ南国・横田英毅氏の著書「会社の目的は利益じゃない」と、医療経営大学の講義内容を参考にしております。
給与・待遇
給与や待遇、役職などを外的動機付けと言いますが、この外的動機付けだけを重要する人も確かに存在します。自院がその地域でトップの給与待遇であれば、問題ないかもしれません。しかし、そうでなければ、そういった人はより良い待遇を求めてすぐに辞めてしまいます。
また、最初は良くても、上を見たらきりがなく、他のスタッフとの待遇比較や、その給与待遇に慣れれば、長続きしないでしょう。いくら外的動機付けだけが良くても、後述するような他の条件が全くなければ、人の心は決して満たされることはありません。
経験上、いくら給与や待遇を優遇しても、良い人材を得ることはとても難しいのですが、経営を始めたばかりの人や、多くの人が、これに囚われる印象があります。
福利厚生
福利厚生、これも外的動機付けです。夏季休暇や有給休暇が多いか、福利厚生がどれだけ充実しているか、など採用面接で質問されることがあります。もちろん、働く側の権利として、知る権利があります。しかし、1の給与待遇と同様に、それだけにこだわる人は、他に良い条件の職場があれば、すぐに他に移ってしまいます。そのため、採用面接でそればかり積極的に聞くような人は、その後の貢献意欲も期待できないため、採用も慎重になります。
やりがい
やりがいとは、1・2の外的動機付けに反して、内的動機付けといわれるものです。この「やりがい」は非常に大切で、毎日それが感じられる環境であれば、スタッフは長く働いてくれるでしょう。そして、そのような人が欲しいのであれば「やりがいのある職場です」など、募集要項に明記するべきです。
医療の仕事は、患者さんの病気が治り、良い施術ができれば、直接感謝される仕事です。そのため、やりがいをストレートに感じることができます。給与に関係なく、やりがいを実感できる職場であれば、給与が標準的であっても、長く働くことができます。
成長・貢献
成長と貢献、これは3のやりがいにも繋がりますが「成長できているな」とか「貢献できているな」と感じられる内的動機付けで、これもとても大事です。成長・貢献を感じられる職場は、やりがいと同じように、そこでずっと働きたいと思う理由になります。
私は一つの業務だけでなく様々な業務を経験することで、成長できると考えています。例えば、看護師なら看護業務だけでなく、経営、人材管理、など新しい経験によって成長が期待できるでしょう。分院を作る際にも、これを意識しました。上野のクリニックで働くスタッフは、大宮のスタッフも兼任しています。異なる場所で働く経験もまた、成長の機会になると思っています。このように、成長・貢献できる職場を意識しています。
人間関係・信頼できる仲間
職場での人間関係も、内的動機付けとなります。人間関係が悪く、信頼できる仲間がいないと職場に行きたいと思いません。ポジティブな影響をお互いに与え、仕事だけでなくプライベートでも仲良くできるような職場であれば、安心感を得られますし、全体の雰囲気も良くなります。
コロナ禍では難しいですが、職員同士で積極的にコミュニケーションを取り、飲み会開催などを福利厚生として取り入れています。今後はレクリエーションなども開催したいと考えています。
自己実現
私の尊敬する有明こどもクリニック院長、小暮裕之先生は、スタッフの自己実現の手助けをしています。実際に、有明こどもクリニックでは医師採用の担当スタッフが独立しています。今では、有明こどもクリニックとの業務委託だけでなく、多数の医院と仕事をしています。私も、医師採用で大変お世話になっています。
このように、私のクリニックにも実力のある意欲的なスタッフには、独立して欲しいと思っています。そして、今後どんどん手助けができればと感じています。他にも、やりたいことが実現できる職場環境を提供し、管理者になりたい、マネージャーになりたい、などの希望を叶えたいとしています。そして、それに関連する業務や、もし、本を出版したいと思っていれば、本に書ける経験を当院で、と考えています。
このように、職場で自己実現が叶えば、スタッフはずっと働きたいと思ってくれるはずです。これは、最高の動機付けではないでしょうか。
当院で心がけていること
前述したように、採用面接で、外的動機付けばかりこだわる人は採用していません。成長欲求があるか、やる気があるか、そこを重点的に質問します。また、昨今ではコロナの影響など、今後も予期せぬ事態により変化が求められ、それに対応する柔軟性も必要となるでしょう。このように、内的動機付けを重要視する人を積極的に採用し、より良いクリニック経営を実現させたいと考えています。
また、当院でも、スタッフの成長のため自己実現できるような挑戦を想定し、分院の展開や、職種ローテーションを検討しています。ジョブローテーションは、慣れるまでは大変なのですが、異なる職種を経験することで視野が広がり、仕事の範囲を超えて良い影響をもたらします。本人にも、クリニックにとっても良いことです。そのような取り組みによって、良い人材がどんどんと育っていくでしょう。そのためにも、親睦会や意見交換会などを通し、良い職場環境を作り、スタッフ間の良好な関係形成のため、できることはどんどん導入したいと思っています。