第3回目は承継開業医とスタッフとの関係・コミュニケーションについてお書きします。
承継開業は売り上げの予測ができる、設備が整っている、人を募集する手間が省けるといったメリットもあるのですが、一番の問題は前の院長を慕って集まっている既存のスタッフ達とコミュニケーションをどのようにとっていけば良いのかということです。
残ってくれたスタッフたちと良い関係を構築することが、重要になります。事実、今の院長がいなくなって新しい院長が来ることで既存のスタッフは非常にピリピリしています。急に新しい院長が来たからといって、すぐにその人に素直に従うというのは人間の感情的に難しいことです。
私、伊勢呂の場合はこの局面をどのように乗り切ってきたのかをお伝えしたいと思います。
承継する前に非常勤スタッフと働く
承継する前に7ヶ月間非常勤のスタッフとして働きました。
前の院長の助言より週一回、丸一日こちらの病院に非常勤のスタッフとして入りました。仕事の内容を把握すると共に、スタッフの方の性格やそれぞれの立ち位置、皆さんの関係を観察し、みなさんそれぞれの接し方などを把握するようにしました。
自分の意見を言わない、決して院長らしく振る舞わない
自分が院長になるのだからといって、自分の思い通りにならないことや非効率なやり方、不満があったとしても、自分の意見を決して言わないことが大事です。
そもそもまだ自分は院長ではないのだし、いきなり来て偉そうに指示をすることは相手にとってもかなり不快なことです。ただひたすら感じ良く、自分の意見を言わないでスタッフの出方をみましょう。
私の愛読書、スティーブン・R・コヴィー著「7つの習慣」にもこのように書かれています。
「最初に自分のことを理解してもらおうとするのではなく、相手のことを理解してから初めて自分は理解されるべきである。」
まさに理解してから理解されるということが大原則なのではないでしょうか。とにかく自分の我を通そうとしないこと、この期間は自分の意見が通るとは思わないで、ただただお客さんとして振舞うのが良いと思います。
スタッフは全員不安 みんなと話そう
スタッフはみんな「この人はどんな人だろう?」という目で見ています。不安を解消するためにもずっと黙っているのではなく、お話をしましょう。私もみんなと一人あたり20〜30分くらいかけて話す時間を作りました。
忘れてはいけないのは、その時に自分のしたいことや思いを伝えるのではなく、ただひたすら相手の話を聞く。このスタンスが大事です。しっかり聞いた上で相手からの不満や不安を聞きましょう。
私の場合は制服の不満、サンダルの費用がでないことの不満、こういうものを買っていただきたい、シフトのことお給料のこと、などなど色々とあったのですが、その時は「直せるといいよね」という感じの返答だけにして、ただただ聞いていました。この時にやる気満々の院長感を出すのは良くありません。
承継後に様子を伺い、いろいろ相談しながらはじめる、売り上げは立っている
承継後、自分が院長に就任した際には売り上げは立っているので安定はしているかと思いますが、自分の診察を見てもらうなど徐々に良好なコミュニケーションがとれてきて、自分のこともなんとなくわかってきてもらえているなと感じ始めた頃にようやく初めて自分の話をしましょう。
私は4月に就任してスタッフ達の様子・顔色を見ながら、5月の下旬にはじめて泌尿器科を立ち上げたいと話をしました。
タイミングを見誤り、ここでもし徒党を組まれると非常に困ります。全員に辞められてしまうかもしれません。くれぐれも自分の我を通すのは慎重にしたほうがいいと思います。
定期的にミーティング、コミュニケーションを図る
それでも新たなことをはじめたり何かをすると不満が生まれるものです。そこで必要なことは定期的にコミュニケーションをとるミーティングをするということです。
コミュニケーションやミーティングでみなさんの意見を汲みあげ、不安、不満が大きくなる前にしっかりと対処することが大切です。私のところでは週に一度ミーティングを行っています。
それでも辞めていく人はいる
どうしても前の院長のことが頭から抜けなくて、新たな仕事が増えるといくらお給料を上げたとしてもそこで不満は生まれるものです。どれだけ自分が筋を通して行動をしたとしても、以前と違うということで反発する人は絶対に出てくるものです。
それでも辞めていく人はいると知りながら仕事をしていくことが大切です。どれほど自分がみなさんに気を使って対処していても、どうしても合わない人はいるもので去る人はいるという覚悟を持ちましょう。
新たな理念を、立ち上げると良い
病院は基本的に、経営理念についてしっかりと考える機会があまりありません。新たな理念を作り上げると良いと思います。理念はスタッフ達が行動する上での指針となります。しっかりとした理念があればスタッフ全員が同じ方向を向き、ブレることがありません。
作り上げ方としては自分が作ってみなさんにポンと与えるのではなく、みんなでクリニックの理念を作っていくといいと思います。
私がやった方法は第三者にMCをしていただいて、「こういう上司っていいよね」「こういう職場がいいよね」などという意見を汲み上げてもらいました。
そこで、じゃあみなさんはこのような目的・方向性を持っていこうということでいいですね?というように理念を作り上げていきました。私が一方的に与えるのではなく、自分たちで作り上げた理念ならば皆従おうと思えます。このような理念作りをしていくことをおすすめします。
以上、伊勢呂なりの承継先でのスタッフとの付き合い方です。皆様のご参考になると幸いです。